喜名 雅 テューバ・リサイタル~謳う、テューバ~
2024年12月14日(土)
MIMOCA(猪熊弦一郎現代美術館)ミュージアムホール
出演:喜名 雅(テューバ)、新居由佳梨(ピアノ)
喜名さんと新居さんは、令和6年度のレジデント・アーティストとして10月末~11月初めに1週間丸亀に滞在し、市内小学校へのクラスコンサート、飯山南コミュニティセンターでのワークショップ「深“まる”アナリーゼ」を行いました。
12月に再度丸亀市を訪れ、滞在の締めくくりとなるリサイタルを開催。
その模様をお届けします。

歌劇「セビリアの理髪師より“私は町の何でも屋”」からリサイタルの幕開けです。演奏が始まってもステージにはピアニスト・新居さんだけ……と思ったら喜名さんは客席後方からサプライズ登場です。「謳う、テューバ」というタイトルにぴったりの陽気なアリアで、華やかにリサイタルが始まりました。
演奏後、テューバの歴史と音の出る仕組みを簡単に紹介して、次の曲「ゴムホースのポルカ」のお話へ。喜名さんがご友人の本間雅智さんに書いてもらったというこの曲。これまではその名の通りゴムホースを楽器にして演奏していたそうですが、今回は塩ビパイプを繋ぎ合わせて「塩ビパイプのポルカ」をお届けしました。先に向かって少しずつ太くなるようにしていることで、ゴムホースよりも柔らかい音が出ます。意外にも深みのある響きに、客席から「おぉ~」と驚きの声が上がりました。

「ここからがリサイタル本番です(笑)」と披露されたのは、バッハ作曲「フルートソナタ 変ホ長調 BWV1031」より第一楽章。テューバは1835年に発明された新しい楽器なので、バッハの時代にはありませんでした。どっしりとしたイメージのあるテューバですが、フルートのために書かれた軽やかな曲調にとてもマッチして、作品の新たな一面が垣間見えました。
続いて、ワーグナー作曲、歌劇「タンホイザー」より“夕星の歌”をお届けしました。まさしくテューバの真骨頂ともいえる深く豊かな響きと、寄り添うような優しいピアノの音色に包まれ、穏やかな時間が流れます。

「いろいろと苦しい世の中だけど、そういうことを乗り越えて幸せな気持ちになれたら」と演奏されたのは、アンジェラ・アキ「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」。小学校でのクラスコンサートでは、子どもたちに対してもメッセージを贈り、喜名さんにとっても思い入れのある1曲です。
間奏部分では演奏に合わせた手拍子で、会場全体が一つになりました。
ここで「次の曲の準備をする間、おしゃべりしましょう」と喜名さん。喜名さんと新居さんはこのリサイタルに先がけて、10月末~11月初めまで丸亀に滞在し、市内小学校でのクラスコンサートとコミュニティセンターでのワークショップを開催しました。
「(クラスコンサートは)同じプログラムでもクラスによって全然反応が違って、おもしろかったですね」「毎日うどんを食べまくりましたね」
と、訪れた小学校名やうどんのお店の名前をすべて挙げて、丸亀での思い出を語ってくれました。お2人の気さくなトークに客席からも笑いが起きます。

和やかな空気の中、続いてはワイルダー作曲「エフィー組曲」です。全6曲からなる小象エフィーの物語で、各曲に「猿を追いかける」「恋に落ちる」など、情景が浮かぶようなタイトルが付いています。
喜名さんがご友人に描いてもらったという、かわいらしいイラストとともにお届けしました。
休憩を挟んで後半は、プログ作曲「三つの小品」から始まりました。3つの曲で構成されていますが、それぞれに違う表情を見せます。第3曲では、テューバとピアノが複雑に絡み合い、追いかけ合うように目まぐるしく展開します。お2人の息の合った演奏に大きな拍手が贈られました。

ここからはテューバとピアノ、それぞれソロで演奏します。
まずは、テューバのソロで、ペンデレツキ作曲「カプリッチョ」。楽譜に「できる限り高く/低く」という指示があったり、巻き舌のように舌を震わせながら吹く「フラッター」という奏法が登場したりと、テューバの幅広い表現が楽しめる作品です。
低音のイメージが強いテューバですが、高音も低音と同様の深みを持って、とても魅力的に響きます。普段聴く機会が少ないテューバのソロ演奏に、客席のみなさんもじっくりと聴き入っていました。

続いてはピアノソロで、チャイコフスキー作曲、バレエ音楽『くるみ割り人形』より“花のワルツ”です。クリスマスが近づくこの時期にぴったりの作品です。オーケストラ用に書かれた作品をピアノ1台で表現します。優美で可憐な印象から、終盤に向かうにつれ華やかさを増していく新居さんのダイナミックな演奏に魅了されました。
リサイタルの最後は、R.V.ウィリアムズ作曲「テューバ協奏曲」を演奏しました。
どこか懐かしさを感じるような第一楽章、優しくも切ない第二楽章と、テューバの温かみのある豊かな響きと、そっと触れるような繊細なピアノが胸を打ちます。第三楽章では一転、激しく力強い演奏に圧倒されました。
アンコールに演奏したのは喜名さんの出身地である沖縄にちなんで、喜名昌吉さんの「花〜すべての人の心に花を〜」。お2人の人柄が表れるようなぬくもり溢れる響きで、会場全体が温かく柔らかい空気に包まれました。

終演後のお見送りでは、多くのお客様から「とてもよかった」「また来てくださいね」と、温かい言葉がお二人に寄せられたり、テューバを演奏している学生たちの質問に答えたり、一緒に写真を撮ったりと、最後まで優しく和やかな演奏会になりました。
